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名古屋地方裁判所 昭和47年(ヨ)942号 判決 1972年11月22日

債権者 社団法人日本歯科技工士会

右代表者代表理事 中筋勇吉

右訴訟代理人弁護士 田中平八

債務者 社団法人愛知県歯科医師会

右代表者代表理事 瀧義胤

右訴訟代理人弁護士 大脇松太郎

同 大脇保彦

同 大脇雅子

同 内河恵一

同 高山光雄

主文

本件申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

事実

一、申請の趣旨

債務者は、歯科技工士でないものをして歯科技工の業務に従事させる目的で歯科技工の講習会を開催し、又は歯科医師をして歯科技工士でないものをして歯科技工の業務に従事させるよう助長する行為をなし、以て債権者に加入している歯科技工士の業務を妨害してはならない。

との裁判を求める。

二、申請の趣旨に対する答弁

主文第一項同旨の裁判を求める。

≪以下事実省略≫

理由

一、債権者が全国の歯科技工士を会員とし、昭和三二年九月三日主務官庁から設立を許可された団体であり、歯科技工士の徳性を昂揚し、技術の向上発展を図り、歯科医療に寄与することともに会員の福祉増進を目的とするものであること、債務者が愛知県下の歯科医師の団体であること、債務者が昭和四七年四月頃昭和四七年九月から同四八年二月頃までの間、歯科技工助手という名称の助手(この助手は歯科技工士の資格を有しない者である)を養成するための講習会を開催するための事業計画を発表したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、債権者の本件仮処分申請は、右の講習会開催の差止請求権を被保全権利とするものであることが、債権者の主張に照して明らかである。

そこでまず債権者の主張するところが、被保全適格を有するものであるか否かについて審案する。

(一)  歯科技工とは特定人に対する歯科医療の用に供する補てつ物、充てん物又は矯正装置を作成し、修理し加工することをいうのであるが、右の行為をすることができる者は、法定の資格を有する歯科技工士及び歯科医師に限られているのである(歯科技工法二条一項、三条、一七条一項)。

そして同法は、歯科技工士について免許制度を採用し、都道府県知事の免許を受けた者でなければ歯科技工を業として行ってはならない旨、及びこの免許を受けるためには原則として厚生大臣の指定する歯科技工士養成所を卒業したうえ、歯科技工士試験を受けてこれに合格しなければならない旨を規定しているのである(同法二条二項、一七条、一四条、三条)。

(二)  ところで法が右のようにある一定の資格を有する者に対してのみある一定の営業をなすことができるという免許を付与することは、本来自由であるべき営業に対する禁止を解除し、その自由を回復せしめるにとどまるものであって、新たに独占的な財産権を付与するものではないのである。また歯科技工士は歯科医師に対して独占的に歯科技工による製品を供給するものであるけれども、歯科医師自らも歯科技工をなすことが法によって認められているのである。

歯科技工法の前記規定によって歯科技工士が営業上の利益を受けることは否定できないけれども、歯科技工が国民の歯の健康維持疾病の治療等に必要欠くべからざるものであることにかんがみ、公益上の見地から歯科技工法が制定されたものであることに照すと、同法は歯科技工士の営業上の利益を保護する趣旨のものではない。

したがって歯科技工法の規定(特に二条一、二項、一七条)は、債権者が主張するように歯科技工士の営業上の利益を保護した規定と解することはできない。

そして以上の判断によれば、歯科技工士の右の利益は、単なる事実上の反射的利益にすぎないものというべきである。

右のように債権者が本件において被保全権利として主張するところは、反射的利益にすぎないものであるから、仮処分によって保護さるべき被保全適格を有する権利もしくは利益であるということはできない。

(三)  次に債権者は歯科技工士と歯科医の間に歯科技工について請負類似の契約関係が成立していると主張している。右の債権者の主張は明確を欠くうらみがあるが、右の契約上の権利にもとづき、前記講習会の開催の差止を求めるという主張と解される。

ところで歯科技工士は、他の資格を伴う職業(例えば弁護士、医師、歯科医師)のように不特定多数の者が顧客となるものと異り、歯科医師という限られた集団のみが顧客となるものであることが≪証拠省略≫により一応認められ、右の点に歯科技工士の特色があると考えられる。しかしだからといって、歯科技工士の歯科医師に対する関係が、法の保護を受けるに値する権利又は利益であるということはできず、歯科技工士が歯科医師から受ける営業上の利益は、いわゆる反射的利益にすぎないものであることは前記のとおりである。

また前記のように歯科医師自らが、歯科技工をすることができるのであり、債務者が本件講習会によって養成しようとしている助手が右のためのものであることが、≪証拠省略≫によって一応認められるのである。そして歯科医師が自ら行う歯科技工について、これに関する知識を有する助手を必要とすることは、経験則上当然の事柄である。

したがって債権者が主張するように一般的に歯科技工士と歯科医師の間に請負類似の法律関係が存在しているものということはできない。歯科技工士は、歯科医師の具体的な指示書によって歯科技工を行う(歯科技工法一八条)のであって、右両者の間に債権者が主張するような一般的な法律関係が存在する余地はないというべきである。

したがってこの点に関する債権者の主張は採用できない。

三、以上の次第であるから債権者の本件仮処分申請は、被保全権利として主張するものが、被保全適格を有しないものであり、右の疎明に代えて保証を立てさせることも相当ではない。

してみれば、その余の点について判断するまでもなく、本件仮処分申請は理由がないから、失当として却下することとし、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋爽一郎)

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